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名もないある日の、名もない幸せについて

DSC05852.jpg

仙台へ帰るための飛行機の中に僕はいた。
仕事の大きな研修会を終え、あまり馴染みのない街を訪れ、疲労と充実感に包まれていた。

空には鱗雲が広がり、冷たくなった風はすすきを揺らしていた。
秋。

ボーイング767は既に滑走路に入っている。
生まれたばかりの橙色の陽の中で、少しずつその速度を上げていく。


この世界を支配する慣性が僕の体をシートに押し付ける。
飛び立とうとする機体。
とどまろうとする身体。

機体は地上を離れ、みるみるうちに景色が遥か下方に広がる。


個々の座席に置かれているリーフレットを手にとり眺めていると、機内放送には山下達郎をゲストに迎えたANA特別プログラムが用意されていた。

ああ、そうか、ついこの間ベスト盤が出たばかりだ。

ガラクタみたいな備え付けのヘッドホンを脇に押しやり、普段使っているシュアのイヤホンを接続する。


いつもの聞き慣れた声。
優しく美しいメロディと力強いビート。
永遠の少年性。


夢中になって聞いているうちに、少しずつ日が暮れていった。
僕らの住む美しい球体が描く曲線とそれに接する光のグラデーション。
赤は橙色に移行し、途切れなく黄色から無色のような空白を経てブルーへと変わる。

視界は徐々に群青に支配され、昨日や一昨日やおそらくは1000年前と同じように夜が訪れた。


山下達郎は自身の楽曲について語り、それと併せて人生を語り、その人生の大半を占めてきた音楽について語っていた。そして彼の歌はさらに雄弁に彼について語っていた。

彼がトークをする時にはそれに耳を傾け、曲に移るとそれをBGMに読みかけの小説を読んだ。


もうすぐ仙台だ。
機体は徐々に高度を下げていく。

地上に光が見え始めた。
少し距離を置きながら存在する光の集落がいくつも見える。
明滅するちいさな光の粒。

大きな国道の光はまるで動脈みたいだ。
その大血管はそこから小血管を連ね、さらに毛細血管を分岐し、光の集落をつないでいる。

その光の粒子の正体は、生活だ。
地上のひとびとが生きて生活していることの証だ。

この島国がまるでひとつの大きな生命体のように見えた。



この光のひとつひとつにそれぞれ命の営みがあり、この光のどれかが僕の家族なんだな、と思った。

そしてこれは幸せと呼んでいいものなんだろうな、と思った。


守るべき家族がいて、傾注すべき仕事がある。
学ぶべきことがあり、目標がある。
僕を慰め、鼓舞し、温めてくれる音楽があり、これから生まれてくる聞くべき音楽がある。
まだ訪れたことのない素敵な街も、まだ読んだことのない素晴らしい小説も無数に存在する。


手に取れるようなものではない。
茫漠とした幸福感。

今の僕は生きることが苦痛なわけじゃない。
でも、この気持ちがあれば、まだまだ生きていける、生きていくことは、そう悪いことばかりじゃない。
そう思えた。

ついさっきまで遥か上空から見ていた、小さな光のなかで。
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[ 2012/10/16 00:00 ] 雑記 | TB(0) | CM(0)

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